【症例】難治性貧血(骨髄異形成症候群:MDS疑い)に対し、シクロスポリン、フアイア糖鎖TPG-1、プレドニゾロンで寛解が得られた犬の1例
症例提供: 小島 千恵子先生(ほるん動物病院)
シクロスポリン、フアイア糖鎖TPG-1、プレドニゾロンで寛解が得られた骨髄異形成症候群(MDS)疑いの犬の1例
症例基本情報
- 品種: キャバリア・キングチャールズ・スパニエル
- 性別: 去勢雄
- 年齢: 7歳6ヶ月
- 体重: 10.08kg (BCS 4/5)
- 既往歴: 僧帽弁閉鎖不全症、アトピー性皮膚炎
- 主訴: 初診3日前、紹介動物病院での健康診断で貧血(PCV 29%)を指摘され精査のため来院。

症例概要
初診時の血液検査において、PCV 24.9%(網状赤血球 133,000/μL)と貧血を認めた。血液塗抹検査では、ヘモグロビン量の異なる赤血球の二相性に加え、棘状、有棘、球状、楕円、破砕などの奇形赤血球が多数確認された。その他の血液化学検査では、ALP 93 IU/l、CRP 3.85 mg/dl等の所見がみられた。画像診断では、超音波検査にて胆泥および脾臓結節病変(6.2×4.5mm)が認められた。



第11病日に骨髄検査を実施した結果、骨髄細胞診ではM:E比 0.7:1で正染性赤芽球の割合が低く、正染性赤芽球に2-3核の軽度な異型性が認められたほか、組織球の増加と有核細胞の貪食像が観察された。また、骨髄病理検査では赤芽球系の低形成および多数のヘモジデリン貪食マクロファージが確認された。ミエログラムにおける芽球比率は0.9%であった。 これらの赤血球の二相性や赤芽球の分化停止、異形成所見から、Precursor-targeted Immune-Mediated Anemia (PIMA) を第一に疑いつつも、MDSも否定しきれない病態と判断され、最終的に血液・骨髄所見および治療反応を総合してMDSと診断された。



治療経過・併用戦略
- 初期治療(第11病日〜): プレドニゾロン(2mg/kg SID)およびアモキシシリン(10mg/kg BID)を開始。貧血の進行に対し第15病日に輸血(濃厚赤血球120ml)を実施した。
- 免疫抑制剤の追加と変更: 第25病日よりミコフェノール酸モフェチル(MMF, 11mg/kg BID)を追加するもPCVの低下傾向が続き、第40病日付近で再度輸血を要した。
- フアイア糖鎖TPG-1の導入(第53病日〜): MMFの反応が乏しいと判断しMMFを中止。代替としてシクロスポリン、ビタミンK2、そして免疫調整作用を期待してフアイア糖鎖TPG-1を新たに治療プロトコルに組み込んだ。


臨床経過・データ推移
フアイア糖鎖TPG-1を含むプロトコルへ変更後、PCVは上昇傾向に転じ、安定した造血の回復が認められた。


考察
犬のMDSに対する標準治療は未だ確立されていないが、本症例においては初期のプレドニゾロンおよびMMFによる免疫抑制療法では十分な造血回復が得られなかった。しかし、シクロスポリンへの変更とともにフアイア糖鎖TPG-1を併用したことで、PCVの改善とプレドニゾロンの休薬が達成された。
フアイア糖鎖TPG-1はTLR4を介してNF-κBに働きかけ、IL-6、TNF-α、NOを誘導する免疫調節作用を持つとされている。

本症例において、この免疫調節作用が異常な免疫応答を制御し、造血微小環境の改善を後押しした可能性が考えられる。難治性の造血器疾患・自己免疫疾患において、ステロイドの長期投与を回避するための選択肢の一つとして、フアイア糖鎖TPG-1の併用が有用である可能性が示された一例である。
