【症例】多中心型リンパ腫
症例提供:高橋隆之先生(たか動物病院)
多中心型リンパ腫Stage IVa 犬における糖鎖製剤(TPG-1)併用療法の副作用軽減と再発予防効果
―CHOP プロトコル下でQOL 維持および無再発生存期間の延長が得られた症例報告―
背景
犬の多中心型リンパ腫は犬で最も一般的な造血器悪性腫瘍であり、標準的なCHOP 療法(シクロフォスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)により約80 ~95%の高い寛解率が得られるものの、副作用によるQOLの低下や治療中断が課題である。Stage IVa 症例の中央値無再発生存期間(MST)は約157 ~ 254 日、単剤ドキソルビシン治療のMST は約170 日である。
本症例では、CHOP 療法に糖鎖TPG-1 を併用し、副作用の軽減および無再発生存期間の延長が得られたことを報告する。
症例概要
| 動物種 | 犬(フレンチブルドッグ) |
| 性別 | 未去勢雄 |
| 年齢 | 4 歳11ヶ月(診断時) |
| 体重 | 11 kg |
| 診断 | 多中心型リンパ腫(Stage IVa) |
| 診断方法 | 細胞診、リンパ球クローン性解析(PARR 法) |
| 主訴 | 頸部リンパ節腫脹、元気消失 |
| 診断日 | 2024 年10 月25 日 |

治療経過・併用戦略
2024 年11 月16 日、CHOP 療法を開始(ビンクリスチン0.7 mg/m² 週1 回、シクロフォスファミド250 mg/m²3 週毎、ドキソルビシン30 mg/m²3 週毎計2 回、プレドニゾロン2→0.5 mg/kg 漸減4 週)。
初回ドキソルビシン投与後6 日目にGrade 1 の下痢、ビンクリスチン投与後3 日目にGrade 1 の倦怠感が認められたため、支持療法(マロピタント、メトロニダゾール)を実施した。
2024 年12 月14 日、第2 サイクルのドキソルビシン後より、糖鎖TPG-1 を1 日1 回1 杯(約10 mg/kg 相当)経口投与開始し、約3ヶ月継続中である。
選択理由は免疫賦活作用による再発予防および腸管粘膜保護作用による消化器症状軽減を目的とした。
糖鎖TPG-1 は、フアイア(英名:Huaier、学術名:Trametes robiniophila Murr.)から水性抽出・単離された多糖タンパク複合体であり、フアイアの有効成分の一つとされる。TLR4 を介し、NF-κB およびMAPK シグナル経路を介した免疫増強作用(TNF-α、IL-6、NO をアップレギュレーション)による抗腫瘍活性を示すことが知られている⁴。
近年、ヒトの免疫療法としての臨床研究が国内外で進んでおり、ヒト肝細胞癌術後における1044 例ランダム化比較試験で再発予防効果⁵や、動物モデルにおける炎症性腸疾患での抗炎症⁶など、科学的根拠の蓄積が進んでいる。副作用は多量投与時の一過性の軽微な下痢とされている。
臨床経過・QOL評価
CHOP 第1 サイクル後、一過性の体重低下(11 kg→10.7kg)を認めたが、糖鎖TPG-1 開始後約2 週間で食欲と活動性が回復し、体重は元の11 kg に戻った。2025 年6 月6日時点(治療開始から28 週)、超音波・X 線検査にて無再発生存を維持しており、飼い主からも「以前とほぼ同じ生活ができている」との評価を得た。副作用は糖鎖TPG-1開始後、Grade 0 で推移しCHOP 療法全コースを予定通り完遂した。
考察
多中心型リンパ腫Stage IVa におけるCHOP 療法の一般的な無再発生存期間と比較し、本症例の211 日間無再発生存は良好な成績である。糖鎖TPG-1 併用が化学療法誘発性消化器症状を軽減し、副作用による治療中断リスクを抑制した可能性が考えられる。一方、単一症例ゆえ再現性や糖鎖TPG-1 の最適用量設定には更なる研究が必要である。
今後の課題
糖鎖TPG-1 の最適投与量、化学療法薬との薬物相互作用、免疫学的機序の詳細解析を多施設共同研究で明らかにすることが重要である。
結語
多中心型リンパ腫Stage IVa 犬に対して糖鎖TPG-1 を併用した結果、副作用の軽減、QOL 維持、無再発生存期間の延長が示唆された。糖鎖TPG-1 は化学療法補完療法として有望な選択肢であり、今後の臨床研究が求められる。