【症例】猫の鼻腔リンパ腫
症例提供:秋吉亮人先生(アキヨシアニマルクリニック)
猫の鼻腔リンパ腫に対して化学療法との併用

症例基本情報
17 歳の日本猫(避妊雌)。主訴は約1 か月前より持続するくしゃみおよび鼻汁(猫ウイルス性鼻気管炎:FVR)が認められ、5 日前より鼻出血および眉間部の腫脹が認められるようになり、精査目的で来院。
既往歴として、若齢期よりFVR およびアレルギー性皮膚炎の診断があり、現在も低アレルゲン食を継続中。1 か月前より抗菌薬およびインターフェロンによる治療歴があり、5 種混合ワクチンは定期接種済。
症例概要
初診時には、正面視で右眼の開瞼不良を認め、鼻腔から副鼻腔領域にかけて腫瘤様の腫脹が認められた。
X 線検査では右側鼻腔の不透過性の亢進が認められ、CT 検査においては鼻中隔および鼻骨の骨溶解とともに腫瘤性病変が認められた。篩板の骨融解は認められず、頭蓋内への浸潤も認められなかった。
細胞診および確定診断
細胞診では大型の腫瘍性リンパ球が多数確認され、鼻腔リンパ腫が疑われました。リンパ球クローナリティー解析の結果、IgH 遺伝子の再構成が確認され、B 細胞性の高悪性度リンパ腫と診断されました。篩板浸潤や腎浸潤はなく、鼻腔に限局した病期と診断された。
治療方針と経過
鼻腔リンパ腫に対する第一選択は放射線治療であるが、飼い主の強い希望により化学療法を選択した。通院頻度の制限も考慮し、初期治療としてL- アスパラギナーゼ(L-asp)およびニムスチン(ACNU)の併用を実施した。

腫瘍の初期縮小が得られたものの、第15 病日に再増大を認めたため、プロトコールの再検討を行い、CHOP 療法を再度提案したが、通院間隔を重視する飼い主の意向により、CPA 単剤(高用量)による治療(文献:Moore et al.,2018; Chan et al., 2020)へ変更した。
第29 病日には腫瘍が肉眼的に確認できないレベルまで縮小し、臨床的には完全寛解に至ったが、同時に発熱性好中球減少症(体温39.8℃、WBC 360/μL、Neu 180/μL)を発症し、嘔吐・下痢・鼻汁・くしゃみを呈した。症状は、化学療法の副作用ならびに、既往歴であるFVR の悪化も
加味していると考えられ、対症療法を実施した。

糖鎖TPG-1の導入とその影響
第29 病日に、飼い主からの要望もあり、対症療法に加えて糖鎖TPG-1 を導入した。免疫調整作用を期待し、既往症としてのFVR に起因する鼻汁やくしゃみ、下痢などの症状緩和を目的として、2 倍量にて開始した。
導入後は、鼻汁・下痢は完全に消失し、以降も再発は認められなかった。嘔吐については、併用したミルタザピンおよびマロピタントにより治まった可能性もあるが、症状全体としての緩和が確認された。
第71 病日以降は、発熱性好中球減少症への配慮からCPA の投与量を10%減量したが、腫瘍のコントロールは維持された。飼い主の強い意向により4 回目投与時には、再び460mg/ ㎡へ戻したが、発熱性好中球減少症の再発は認められなかった。
その後、CPA に対する耐性が明らかとなったため、ビンクリスチン、トセラニブ、放射線、カルボプラチン、ロムスチン(CCNU)を順次導入したが、第203 病日に鼻腔リンパ腫の脳浸潤により永眠した。
治療期間を通じて、糖鎖TPG-1 開始より、消化器症状および鼻症状の再燃はなく、また、抗がん剤投与1 週間後の好中球減少は認められるものの発熱性好中球減少症の再発は認められなかった。

考察
■ 鼻・消化器症状の制御に関する可能性
糖鎖TPG-1 導入後、化学療法の副作用による下痢や鼻汁が明らかに軽減し、特にFVR 由来と考えられる症状の消失が顕著であった。このことから、糖鎖TPG-1 が免疫調整を介して、腸管免疫や鼻腔粘膜免疫の恒常性維持に寄与した可能性が示唆された。慢性腸症やウイルス性鼻気管炎に起因する二次症状の抑制において、一定の有用性が認められると考えられた。
■ 発熱性好中球減少症の予防効果について
高用量CPA 投与時においても、糖鎖TPG-1 導入後は抗がん剤投与1 週間後の好中球減少は認められるものの発熱性好中球減少症の再発がみられなかった点は注目に値する。これにより、糖鎖TPG-1 が免疫調整機能を介し感染を制御し、日和見感染リスクを低減させる可能性が示唆された。
結果として、化学療法の強度維持や治療継続性の向上に寄与したと考えられた。