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【症例】犬の脾臓血管肉腫

症例提供:秋吉亮人先生(アキヨシアニマルクリニック)

犬の脾臓血管肉腫に対して術後療法との併用

症例情報

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 ノーフォーク・テリア、8 歳、去勢雄。主訴は腹囲膨満および虚脱。既往歴としてアレルギーがあり、低アレルゲン食を継続中。ワクチン接種およびフィラリア予防は継続的に実施済み。
 身体検査にて腹囲膨満と可視粘膜の蒼白を認めたため、直ちに腹部のファストエコーを行い、脾臓腫瘍の破裂および腹腔内出血を確認した。

 

検査および診断

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 血液検査にて、重度の貧血(低PCV)、血小板減少、凝固異常、およびCRP 高値を認めた。胸部X 線検査では明らかな肺転移病変は確認されず、心臓超音波検査においても血管肉腫を疑う腫瘤病変は認められなかった。
 これらの所見より、脾臓原発腫瘍(特に血管肉腫)の破裂による出血と判断し、速やかに脾摘摘出を実施した。病理組織学的診断により、脾臓血管肉腫(ステージII)と確定診断された。

 

治療経過

 脾臓血管肉腫においては、手術単独では術後1 ~ 3ヶ月以内に死亡する症例が多く報告されているため、術後補助化学療法の実施を提案した。


治療選択肢として以下のプロトコールを提示した:
・ドキソルビシン単剤またはミトキサントロン
・カルボプラチン
・VAC プロトコール
・トセラニブ
・メトロノミック化学療法(低用量持続型)

 飼い主の「通院負担の少ない自宅投薬での治療を希望したい」との意向を踏まえ、第15 病日よりトセラニブを開始した。しかし、第22 病日に下痢を呈し、一時的に休薬し、対症療法を実施した。
 第28 病日、飼い主よりトセラニブの再開希望があり、同時に腸内の免疫調整を目的とした糖鎖TPG-1 の併用を提案。2 倍量にて導入した。
 以降、トセラニブの継続投与に伴う有害事象は認められず、超音波検査でも再発・転移を示唆する所見は長期間にわたり認められなかった。全身状態は安定し、食欲の維持、体重増加、活動性の改善など、良好なQOL が継続して観察された。
 しかし、第158 病日に超音波検査にて腹腔内出血および転移性病変を確認し、第189 病日に永眠した。

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考察

 脾臓血管肉腫における予後は極めて不良であり、脾摘のみの生存期間中央値は1~3ヶ月とされている。化学療法を併用した場合でも、ドキソルビシンを中心とする治療で6~9ヶ月程度と報告されている。
 ドキソルビシン単独と比較して、トセラニブを単独投与した際の生存期間の延長効果については、現在までに一貫した結論は得られていない。しかし、一部の報告では、ドキソルビシン単剤と比較してドキソルビシンとトセラニブを併用しても顕著な延命効果は認められなかったとの報告もある。
 本症例では、ドキソルビシン等の静注化学療法を行わず、トセラニブと糖鎖TPG-1 の併用で189 日(約6ヶ月)の生存期間を得ることができた。これは、文献上のドキソルビシン単独治療と同等の予後であり、トセラニブと糖鎖TPG-1の併用が脾臓血管肉腫の延命およびQOL 維持に有用であ
る可能性を示唆した。

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