【症例】IMHAと慢性腸症の併発
症例提供:久末正晴教授(麻布大学内科学研究室)
IMHAと慢性腸症を併発した犬における免疫抑制療法との併用

症例情報
10 歳の避妊済みトイ・プードル。免疫介在性溶血性貧血(IMHA)に対して寛解状態であり、糖鎖TPG-1 の使用開始時には、白血球数30,000/μL、赤血球数7,660,000/μL、PCV 51% と、血液学的には安定した状態ではあったが、慢性的な嘔吐と下痢が継続し、特に重度の時には吐血も確認されるなど、消化器症状がQOL を著しく低下させていた。
初期のIMHA は重篤で、球状赤血球の増加とともにPCVが10% 程度まで低下していたため、プレドニゾロンおよびミコフェノール酸モフェチルによる免疫抑制治療を実施した。
その後、PCV の改善とともに消化器症状も一時的に安定したが、再度慢性嘔吐が悪化し、摂食困難と体重減少が認められた。週に1~3 回の嘔吐が持続し、血清タンパクは維持されているものの、今後のQOL 維持が困難と判断した。
背景と病態の理解
慢性腸症は、腸の炎症性疾患として認識される一方で、リンパ腫との鑑別が常に重要であり、前がん段階の疾患とみなされることもある。そのため、単なる免疫異常にとどまらず、持続的な炎症や組織変化を踏まえた長期的なモニタリングと対応が求められる。
検査と診断

腹部超音波検査にて、十二指腸壁の軽度肥厚および複数のリンパ節腫脹が認められ、特に膵周囲のリンパ節の腫大が目立った。細胞診ではリンパ球優位の炎症性所見が得られ、内視鏡検査および臨床所見より、炎症性腸疾患(IRE)と診断した。
この時点ですでにステロイド投与中であり、さらなる増量は一時的な効果が期待される一方で、漸減が困難になる可能性もあった。また、併用されていた制吐薬(マロピタント、メトクロプラミド)、胃酸分泌抑制薬(オメプラゾール)などによる対症療法の限界もあり、新たな選択肢として糖鎖TPG-1 の使用を提案し、併用を開始した。
治療経過

糖鎖TPG-1 の投与開始後、約50 日を経過した時点で、週に1~3 回みられていた嘔吐の頻度が明らかに減少し、症状の改善が認められた。また、プレドニゾロンの投与量を隔日投与(EOD)まで減量可能となった。
一時的に再発兆候がみられ、プレドニゾロンを0.31mg/kg に戻したが、その後は嘔吐の再燃なく安定。マロピタントおよびオメプラゾール、さらにメトクロプラミドも休薬し、最終的には糖鎖TPG-1 とプレドニゾロンの併用のみでコントロール可能な状態を維持している。
まとめと考察
IMHA の寛解維持中に慢性腸症を併発した本症例において、糖鎖TPG-1 を併用することで、嘔吐症状の明確な改善、体重の増加、プレドニゾロンの減量および制吐薬の休薬という臨床的な多面的改善が得られた。
飼い主からの満足度も非常に高く、本症例は糖鎖TPG-1が従来の治療と併用することで、消化器症状を伴う複雑な免疫疾患において新たな選択肢となり得る可能性を示唆した。
