【論文】非小細胞肺癌におけるフアイア抽出物(Huaier)の上皮成長因子受容体標的化による増殖抑制効果
フアイアの活性成分がTNF-αやSTAT3等の標的を制御し、免疫性血小板減少症を改善する可能性が示唆された。
対象論文
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項目 |
内容 |
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和訳タイトル |
フアイア抽出物は上皮成長因子受容体を標的とし、非小細胞肺癌の増殖を抑制する |
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英題 |
An extraction from Trametes robiniophila Murr. (Huaier) inhibits non-small cell lung cancer proliferation via targeting to epidermal growth factor receptor |
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発表年 |
2022年 |
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筆頭著者 |
Fei Lv |
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責任著者 |
Ying Wang |
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発表学術誌 |
Bioengineered(Taylor & Francis社が発行する、バイオテクノロジー、バイオエンジニアリング、応用生物学分野を網羅する査読制オープンアクセスジャーナル。インパクトファクターを保有し、分子生物学的アプローチや創薬ターゲットの検証論文を多く掲載している。) |
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DOI |
研究の信頼性チェック(PICO)
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内容 |
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P (Patient/Problem) |
ヒト非小細胞肺癌(NSCLC)細胞株(A549、H1299)、EGFR変異(19番エキソン欠失)肺腺癌細胞株(PC9)、およびA549細胞を皮下移植したBALB/cヌードマウス(4〜6週齢) |
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I (Intervention) |
フアイア抽出物(Huaier)の添加(in vitro:0, 4, 8 mg/mL、一部実験で6 mg/mL)、ゲフィチニブ(50 nM)の単独または併用添加、およびフアイア抽出物(Huaier)の経口胃管投与(in vivo:50 mg/100 μL、3日に1回、計21日間) |
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C (Comparison) |
無処理(0 mg/mL)または溶媒コントロール(Vehicle)群、ゲフィチニブ単独処理群、および生理食塩水(Vehicle control)経口投与群 |
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O (Outcome) |
細胞生存率(MTT)、コロニー形成能、アポトーシス率および細胞周期(Flow Cytometry)、DNA複製能(EdU染色)、EGFRリン酸化(Western Blotting)、分子ドッキング、キナーゼ活性、CETSA、in vivo腫瘍体積・重量、腫瘍組織免疫染色(p-EGFR, Ki-67)、主要臓器(肝・腎)のH&E染色 |
試験デザインとサンプル数
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研究デザイン |
In vitroにおける細胞分子生物学的実験(バイオインフォマティクス、分子ドッキング、キナーゼ活性、CETSAを含む)およびin vivoにおける異種移植(ゼノグラフト)マウスモデルを用いた対照比較試験。 |
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サンプルサイズ |
In vitro実験はすべて独立して少なくとも3回反復(n=3)。in vivo実験では、BALB/cヌードマウス(計10匹)をランダムに2群(コントロール群:n=5、フアイア抽出物(Huaier)投与群:n=5)に割り付け。 |
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研究期間 |
In vitroにおける細胞処理時間は24時間、48時間、72時間。in vivoにおけるマウスへの薬剤投与および観察期間は、腫瘍細胞移植後、腫瘍体積が約60 mm3に達した時点から計21日間。 |
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統計解析 |
SPSSソフトウェアを使用。データは平均値 ± 標準偏差(SD)で表記。2群間比較にはStudent's t-test、多群間比較にはOne-way ANOVAを使用。生存解析はKaplan-Meier法。有意水準はP<0.05と定義。 |
結果の詳細
【In vitroにおける非小細胞肺癌細胞の増殖抑制とアポトーシス誘導】
Fei Lv氏ら(2022年)の研究チームがBioengineeredで発表した検証によると、フアイア抽出物(Huaier)はヒト非小細胞肺癌細胞株であるA549およびH1299の生存率を濃度および時間依存的に有意に低下させた。
コロニー形成アッセイにおいても、フアイア抽出物(Huaier)の添加によって腫瘍細胞のコロニー形成能が顕著に抑制されることが確認された。
フローサイトメトリーを用いた後期アポトーシス解析では、フアイア抽出物(Huaier)の濃度上昇に伴いアポトーシス率が有意に増加した。
具体的には、A549細胞において対照群の4.51%±0.8%から、4 mg/mL投与群で9.36%±1.1%、8 mg/mL投与群で16.4%±1.9%へと上昇した。
H1299細胞でも同様に、対照群の4.21%±0.9%から、4 mg/mL投与群で6.64%±1.4%、8 mg/mL投与群で9.22%±2.0%へと有意に増加した(P<0.05)。
さらに、トータルアポトーシス率の解析においても、顕著な増加が確認された。
A549細胞では対照群の1.05%±0.4%から、4 mg/mL投与群で12.44%±3.2%、8 mg/mL投与群で35.14%±4.4%へと上昇した。
H1299細胞では対照群の3.39%±1.2%から、4 mg/mL投与群で14.36%±3.2%、8 mg/mL投与群で19.48%±2.4%へと有意に増加した(P<0.05)。
細胞周期解析においてはS期での細胞蓄積が認められた。
A549細胞では対照群の3.87%±2.2%から、4 mg/mL投与群で10.9%±7.4%、8 mg/mL投与群で18.1%±6.4%へと増加した。
H1299細胞では対照群の6.9%±3.2%から、4 mg/mL投与群で14.8%±4.6%、8 mg/mL投与群で15.0%±6.5%へと増加した。
EdU染色アッセイにおいても、フアイア抽出物(Huaier)の濃度依存的にDNA複製能を持つ陽性細胞数が有意に減少していることが実証された。
EGFR変異(19番エキソン欠失)を持つPC9細胞株に対する24時間IC50値は7.98 mg/mLであった。
フアイア抽出物(Huaier)8 mg/mLとゲフィチニブ50 nMの併用により、それぞれの単独処理と比較して細胞生存率が有意に低下し、相乗的なアポトーシス誘導効果が認められた。
【バイオインフォマティクスによるフアイアの標的分子予測】
Fei Lvらの検証によると、フアイア抽出物(Huaier)に含まれる5つの主要な活性成分(アデノシン、ergosta-7,22-dien-3β-ol、エルゴステロール、3β-hydroxystigmast-5,22-dien-7-one、ダウコステロール)を基に、PharmMapperデータベースを用いて標的タンパク質の予測が行われた。
重複を排除した結果、合計575個の潜在的な標的分子が抽出された。
これらの標的分子に対してGO機能注釈およびKEGGパスウェイ解析を実施したところ、代謝プロセスや膜成分、タンパク質結合に深く関与していることが明らかになった。
さらに、CooLGenデータベースから得られた376個の非小細胞肺癌関連遺伝子と交差させた結果、32個の共通する標的分子が同定された。
この共通標的分子のタンパク質相互作用ネットワークを解析した結果、非小細胞肺癌の主要なドライバー遺伝子である上皮成長因子受容体(EGFR)が、フアイア抽出物(Huaier)の最も有力な治療標的候補として浮上した。
【分子ドッキングおよびキナーゼ活性阻害試験によるEGFR直接結合の検証】
Fei Lvらの検証によると、フアイア抽出物(Huaier)の活性成分とEGFRとの直接的な相互作用を解明するため、Schrödingerソフトウェアを用いた分子ドッキングシミュレーションが実施された。
陽性対照であるゲフィチニブの結合スコアが-8.233 kcal/mol(本文中記述:-8.626 kcal/mol)であったのに対し、主要成分であるアデノシンは-8.393 kcal/mol(本文中記述:-8.805 kcal/mol)という高い結合親和性を示した。
また、ダウコステロールは-4.826 kcal/mol(本文中記述:-6.826 kcal/mol)、Ergosta-7,22-dien-3β-olは-5.648 kcal/mol、エルゴステロールは-4.206 kcal/mol、3β-hydroxystigmast-5,22-dien-7-oneは-5.142 kcal/molの結合スコアを示した。
アデノシンおよびダウコステロールは、ゲフィチニブと同様にEGFRのアスパラギン酸残基(Asp 555)と水素結合を形成し、ATP結合ポケットに適合することが示された。
キナーゼ活性阻害試験において、フアイア抽出物(Huaier)はEGFRキナーゼ活性をIC50値約1.72 mg/mLで直接阻害した。
さらに、細胞熱シフトアッセイ(CETSA)において、フアイア抽出物(Huaier)の投与によりEGFRタンパク質の熱融解曲線が有意にシフトしたことから、細胞内においてフアイア抽出物(Huaier)がEGFRに直接結合して熱安定性を変化させることが実証された。
なお、個別成分の検証では、アデノシン単体では実際のキナーゼ阻害活性を示さなかったものの、ダウコステロールはIC50値約3.12×10^-7 M(0.312 μM)という非常に強力な活性でEGFRキナーゼを直接阻害することが判明し、これが主要な活性成分の一つであることが示唆された。
【In vivo異種移植モデルにおける抗腫瘍効果と安全性の検証】
Fei Lvらの検証によると、BALB/cヌードマウスにA549細胞を皮下移植した異種移植モデルを用いて、in vivoにおける有効性が評価された。
フアイア抽出物(Huaier)を50 mg/100 μLの用量で3日に1回、計21日間経口投与した結果、対照群と比較して腫瘍の増殖速度が有意に抑制された。
投与開始から18日目以降において両群の腫瘍体積に統計学的な有意差が生じ(P<0.05)、最終日である21日目の腫瘍重量は、対照群の2.4±0.54 gに対してフアイア投与群では1.5±0.41 gとなり、約37.5%の有意な腫瘍重量減少が認められた(P<0.05)。
切除した腫瘍組織の免疫組織化学染色(IHC)では、フアイア投与群において総EGFRの発現量に変化はなかったものの、p-EGFRおよび細胞増殖マーカーであるKi-67の発現が有意に低下していた。
また、投与期間中にマウスの体重減少や異常な臨床症状は観察されず、肝臓および腎臓のH&E染色組織像においても毒性所見は認められなかった。
獣医療への応用可能性と専門的考察
【臨床現場での活かし方】
本研究で示されたフアイア抽出物(Huaier)によるEGFR活性化の直接阻害作用は、犬や猫の臨床腫瘍学において補助療法の選択肢を提供する。
獣医療において、犬の肺腺癌や扁平上皮癌、移行上皮癌、猫の扁平上皮癌など、多くの自然発症腫瘍でEGFRの過剰発現が報告されている。
標準的な外科切除や化学療法が第一選択とされるが、患者の高齢化や重篤な併発疾患、あるいは飼い主の様々な事情により、標準治療を選択できない、あるいは途中で断念せざるを得ない症例にしばしば遭遇する。
このようなケースにおいて、分子生物学的な作用機序が明確であり、かつin vivoで高い安全性が確認されているフアイア抽出物(Huaier)は、科学的根拠に基づいた補助療法(アジュバント療法)に位置づけることができる。
特に、経口投与が可能で重篤な副作用が極めて少ないという特徴は、在宅での緩和ケアやQOL維持を最優先とする局面において、実務的に導入しやすい選択肢となると考えられる。
【既存治療との比較】
現在、獣医療における分子標的薬としては、マルチキナーゼ阻害剤であるトセラニブ(パラディア)が広く臨床応用されている。
トセラニブは強力な抗腫瘍効果を示す一方で、消化器毒性(下痢、食欲不振)や蛋白尿、骨髄抑制などの副作用が課題となり、休薬や減量を余儀なくされるケースが少なくない。
本研究において、フアイア抽出物(Huaier)が既存のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤であるゲフィチニブと相乗効果を示し、併用によってアポトーシスを有意に増加させたという知見は重要である。
これは、既存の分子標的薬とフアイア抽出物(Huaier)を併用することで、医薬品の投与量を低く抑えつつ、治療効果を維持または増強できる可能性を示唆している。
また、単一の標的を阻害する分子標的薬は、腫瘍細胞がバイパス経路を発達させることで早期に耐性を獲得しやすいという弱点がある。
これに対し、フアイア抽出物(Huaier)はEGFRの直接阻害に加え、過去の報告にあるMAPKやWnt/β-catenin、JAK2/STAT3など複数のシグナル伝達経路を同時に抑制するマルチターゲット作用を有しており、耐性獲得を遅延させるための多角的なアプローチとしても有用であると考えられる。
【研究の限界(Limitation)と批判的吟味】
本研究の限界として、第一にフアイア抽出物(Huaier)の多様な成分のうち、EGFR阻害活性の主たる担い手としてダウコステロール(IC50値約0.312 μM)が同定されたものの、抽出物全体としての効果がこの単一成分のみに起因するのか、あるいは多糖類タンパク質(PS-T)など他の含有成分との相乗効果によるものなのかが完全には解明されていない点が挙げられる。
第二に、犬猫の臨床にこの知見を外挿するにあたっては、種差を考慮する必要がある。
ヒトの非小細胞肺癌ではEGFRの遺伝子変異(L858Rやエキソン19欠失など)が高頻度に見られるが、犬猫の自然発症腫瘍におけるEGFRの異常は、遺伝子変異よりも野生型EGFRの過剰発現が主体である。
本研究で野生型EGFRを標的とするA549およびH1299細胞株でも効果が示されたことは好材料であるが、実際のイヌ・ネコ体内における薬物動態(PK/PD)は未解明である。
特に猫においては、グルクロン酸抱合能が制限されているため、植物や真菌由来の二次代謝産物(ステロール類など)の代謝排泄が遅延し、潜在的な肝・腎毒性を引き起こすリスクを排除しきれない。
したがって、臨床応用にあたっては、低用量から慎重に開始し、定期的な血液化学検査によるモニタリングを行うなど、獣医師の管理下での科学的なセーフティネットの構築が重要と考えられる。
読者のためのミニ用語集
- 非小細胞肺癌(NSCLC):肺癌の大部分を占める組織型で、腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌などが含まれる。
- 上皮成長因子受容体(EGFR):細胞の増殖や生存を制御する受容体型チロシンキナーゼであり、多くの腫瘍で過剰発現や変異が見られる。
- フアイア(Huaier):エンジュの木に寄生する薬用茸(Trametes robiniophila Murr.)から得られる抽出物で、抗腫瘍効果や免疫調節作用が報告されている。
- ゲフィチニブ:EGFRのチロシンキナーゼ活性を特異的に阻害する分子標的薬である。
- 細胞熱シフトアッセイ(CETSA):薬剤が標的タンパク質に直接結合することで、その熱安定性が変化する現象を利用して結合を証明する手法である。
- ダウコステロール:フアイア抽出物(Huaier)に含まれるステロール系成分で、本研究においてEGFRキナーゼ活性を直接阻害することが示された。