【論文】胃癌におけるフアイア抽出物のGPR30およびPI3K/AKTシグナル伝達経路阻害による腫瘍増殖抑制効果
フアイア抽出物はGPR30を介したPI3K/AKTシグナル伝達経路を抑制し胃癌の増殖および浸潤を阻害する
対象論文
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和訳タイトル |
フアイアはCircCLASP1/PKR/eIF2αシグナル経路を介してトリプルネガティブ乳癌に免疫原性細胞死を誘導する |
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英題 |
GPR30 Activation Promotes the Progression of Gastric Cancer and Plays a Significant Role in the Anti-GC Effect of Huaier |
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発表年 |
2022年 |
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筆頭著者 |
Xiao-feng Wang |
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責任著者 |
Xiang-Dong Cheng, Zhi-yuan Xu |
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発表学術誌 |
Journal of Oncology(本誌は腫瘍学領域における基礎および臨床研究を網羅する査読制の国際学術誌であり、高い信頼性を有している。) |
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DOI |
研究の信頼性チェック(PICO)
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内容 |
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P (Patient/Problem) |
ヒト胃癌組織91例および隣接非癌組織71例、ヒト胃癌細胞株(MGC-803, BGC-823, HGC-27, AGS, MKN-45)、正常胃上皮細胞(GES-1)、胃癌患者由来異種移植(PDX)ヌードマウス、急性毒性試験用ICRマウス |
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I (Intervention) |
フアイア抽出物(Huaier)のn-ブタノール抽出物(NEH)の投与(in vitro:0〜200 μg/ml、in vivo:25 mg/kg 腹腔内投与)、GPR30選択的阻害剤(G15:2.5 μM)またはGPR30作動剤(G1:50 nM)の併用 |
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C (Comparison) |
in vitro:未処理コントロール群、正常胃上皮細胞(GES-1)。 in vivo:陰性対照群(5% DMSO + 95% 生理食塩水)、陽性対照群(シスプラチン:5 mg/kg 腹腔内投与) |
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O (Outcome) |
細胞生存率、細胞遊走能、細胞浸潤能、GPR30およびPI3K/AKTシグナル伝達経路関連タンパク質発現量、in vivoでの腫瘍体積および重量、主要臓器の病理組織学的検査、急性毒性(LD50、最大耐量[MTD])、血液生化学値 |
試験デザインとサンプル数
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研究デザイン |
ヒト臨床検体を用いた免疫組織化学解析、in vitroでの細胞機能解析および分子生物学的解析、in vivoでの患者由来異種移植(PDX)モデルを用いた薬効評価、ICRマウスを用いた急性毒性および最大耐量(MTD)試験 |
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サンプルサイズ |
臨床組織:胃癌91例・隣接正常71例。PDXモデル:BALB/cヌードマウス計9匹(3群、各群 n=3)。急性毒性試験:ICRマウス24匹(各群 雄2匹、雌2匹)。最大耐量試験:ICRマウス60匹(3群、各群 雄10匹、雌10匹) |
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研究期間 |
in vitro細胞処理:24時間、48時間、72時間、96時間。in vivo PDXモデル投与期間:4週間(週3回投与)。急性毒性および最大耐量試験観察期間:投与後7日間。 |
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統計解析 |
GraphPad Prism 8.0を使用。2群間比較にはStudent's t-test、多群間比較にはANOVAを使用。有意水準は P < 0.05 と定義 |
結果の詳細
【臨床検体におけるGPR30の高発現と予後不良との相関】
Wangら(2022)の研究チームがJournal of Oncologyで発表した検証によると、免疫組織化学染色を用いた解析において、胃癌組織におけるGPR30の高発現率は56.04%(51/91例)であり、隣接する正常組織の23.94%(17/71例)と比較して有意に高いことが示された(P < 0.001)。さらに、GPR30の高発現は腫瘍サイズが5 cm以上の症例と有意に相関していることが明らかになった(P = 0.009)。
カプラン・マイヤー法による生存率解析では、GPR30低発現群の3年生存率が80%であったのに対し、高発現群では60.78%と有意に低下しており(P = 0.0414)、GPR30の発現量が予後不良の独立した因子であることが示唆された。
【in vitroにおけるフアイア抽出物(Huaier)の濃度および時間依存的な増殖抑制効果】
Wangらの検証によると、フアイア抽出物(Huaier)のn-ブタノール抽出物(NEH)が胃癌細胞株の生存率を濃度および時間依存的に抑制することがCCK-8アッセイにより実証された。BGC-823細胞におけるIC50値は、24時間で153 μg/ml、48時間で56.48 μg/ml、72時間で31.26 μg/mlと算出されている。
また、HGC-27細胞におけるIC50値は、24時間で153.1 μg/ml、48時間で60.36 μg/ml、72時間で25.64 μg/mlであった。一方で、正常胃上皮細胞であるGES-1に対しては、200 μg/mlの濃度においても生存率に有意な影響を与えず、低い細胞毒性を示すことが示唆された。
【細胞周期および遊走・浸潤能に対する抑制作用】
Wangらの検証におけるウエスタンブロット解析により、NEHの処理によって細胞周期関連タンパク質であるCDK2、Cyclin A2、およびCyclin D1の発現が有意に低下することが示された。また、傷修復アッセイおよびトランスウェルアッセイにおいて、NEHは胃癌細胞の遊走能および浸潤能を抑制した。
この抑制効果に伴い、細胞外マトリックス分解酵素であるMMP2およびMMP9のタンパク質発現量も有意に減少していることが明らかになった。
【GPR30を介したPI3K/AKTシグナル伝達経路の阻害機序】
Wangらの検証によると、NEHがGPR30の発現、ならびに下流のPI3Kおよびリン酸化AKT(p-AKT)の発現を用量依存的に抑制することが明らかになった。GPR30選択的阻害剤であるG15(2.5 μM)をNEHと併用したところ、PI3K/AKT経路の抑制および抗腫瘍効果がさらに増強された。
逆に、GPR30作動剤であるG1(50 nM)を併用すると、NEHによるPI3K/AKT経路の抑制作用および細胞の遊走・浸潤抑制効果が消失したことから、NEHの抗腫瘍作用がGPR30を介したシグナル伝達の遮断によるものであると考えられた。
【in vivo(PDXモデル)における腫瘍増殖抑制効果と安全性】
Wangらの検証において構築された胃癌患者由来異種移植(PDX)ヌードマウスモデルでは、NEH(25 mg/kg)の腹腔内投与により、コントロール群と比較して腫瘍体積が約52.92%減少した。この腫瘍抑制効果は、陽性対照群であるシスプラチン(5 mg/kg)投与群と同等レベルの強力なものであった。
さらに、NEH投与群ではマウスの体重減少や主要臓器の重量変化、病理組織学的な異常は認められず、腫瘍組織におけるGPR30の発現低下が確認された。
【急性毒性試験および最大耐量(MTD)試験による安全性の検証】
Wangらの検証におけるICRマウスを用いた急性毒性試験では、800 mg/kgまでの腹腔内投与において死亡例や持続的な毒性反応は観察されず、LD50は算出不能なほど低毒性であることが示された。さらに、最大耐量(MTD)試験として1600 mg/kgを単回投与した際にも、死亡例や臨床的な異常、主要臓器の組織学的な異常は認められなかった。
血液生化学検査において、雄のNEH群および溶媒コントロール群でAST(溶媒群:112.56±8.97 U/L、NEH群:96.66±15.86 U/L vs 無処置群:83.76±8.08 U/L)およびクレアチニン(溶媒群:12.50±1.35 μmol/L、NEH群:12.12±1.14 μmol/L vs 無処置群:10.84±1.06 μmol/L)の有意な上昇が認められた。しかし、これは溶媒として用いたDMSOに起因する変化であり、NEH自体の直接的な毒性ではないと考えられた。
獣医療への応用可能性と専門的考察
【臨床現場での活かし方】
犬や猫における原発性胃癌は全腫瘍の1%未満と非常に稀であり、診断時には既に進行しているケースが多いため、本研究の胃癌に対する知見をそのまま臨床に適用する機会は限られると考えられる。しかし、GPR30はエストロゲン関連受容体であり、犬や猫で発生頻度の高い乳腺腫瘍やその他の一部の上皮性悪性腫瘍において高発現していることが知られている。
したがって、これらのホルモン依存性腫瘍や難治性の上皮性腫瘍において、標準治療に反応しない、あるいは副作用等で標準治療が実施できない症例に対し、GPR30/PI3K/AKTシグナル伝達経路を標的とした補助療法としてフアイア抽出物(Huaier)を導入することは、科学的根拠に基づいたアジュバント療法として模索する価値があると考えられる。
【既存治療との比較】
従来のエストロゲン受容体(ERα、ERβ)を標的とした治療(タモキシフェンなど)は、犬猫において子宮蓄膿症や骨髄抑制などの重篤な副作用リスクを伴うため、臨床使用には高い障壁が存在する。これに対し、膜結合型受容体であるGPR30を標的とするアプローチは、従来のホルモン療法とは異なる機序で腫瘍の浸潤や転移を抑制できる可能性がある。
本研究で示されたように、フアイア抽出物(Huaier)はシスプラチンと同等の腫瘍抑制効果を示しながらも、骨髄抑制や腎毒性などの重篤な副作用を示さないため、既存の化学療法剤の投与量を減量しつつ治療効果を維持するための併用薬として有用な選択肢になり得ると考えられる。
【研究の限界(Limitation)と批判的吟味】
本研究における制限因子として、NEHがフアイアのn-ブタノール抽出物であり、総フラボノイドが51.4%を占めることは判明しているものの、単一の活性化合物(モノマー)の特定には至っていない点が挙げられる。また、犬猫の臨床に外挿するにあたり、特に猫においてはグルクロン酸抱合能が著しく低いため、植物由来のフラボノイドやフェノール化合物の代謝・排泄が遅延し、中毒を引き起こすリスクを常に考慮する必要がある。
さらに、実験で使用された溶媒であるDMSOに起因する肝腎数値の軽度上昇が認められたことから、実際の臨床応用においては、安全な水溶性懸濁液などのキャリアを用いた製剤設計が不可欠であり、安易な自己調剤や人間用サプリメントの流用は避けるべきであると考えられる。
読者のためのミニ用語集
- GPR30:Gタンパク質共役受容体30(GPERとも呼ばれる)。細胞膜上に存在し、エストロゲンなどのシグナルを受け取ることで、細胞の増殖や遊走を迅速に活性化する受容体。
- PI3K/AKTシグナル伝達経路:細胞の生存、増殖、代謝、および運動性を制御する代表的な細胞内シグナル伝達経路。多くの悪性腫瘍においてこの経路の異常な活性化が認められる。
- PDXモデル:患者由来がん組織異種移植(Patient-Derived Xenograft)モデル。患者から採取したがん組織を免疫不全マウスに直接移植したモデルであり、従来の細胞株移植モデルよりもヒト臨床に近い病態を再現できる。
- フアイア抽出物(Huaier):エンジュの樹などに寄生するキノコ(Trametes robiniophila Murr)から得られる生理活性成分。抗腫瘍効果や免疫調節作用を持つことが多くの研究で報告されている。
- MTD:最大耐量(Maximum Tolerated Dose)。動物実験において、許容できない毒性症状を示さずに投与できる最大の用量。