【症例】ミニチュア・ダックスフンドの右後肢肥満細胞腫に対しフアイア糖鎖TPG-1の併用により良好なQOLを維持している一例
症例提供:岐阜県内 動物病院(獣医師)
右後肢第4指の高グレード肥満細胞腫を呈し、右膝窩リンパ節転移および脾臓癌腫が認められた18歳3ヶ月のミニチュア・ダックスフンドに対し、フアイア糖鎖TPG-1の併用により遠隔転移および良好なQOLを維持している一例。
症例基本情報
|
動物種/品種 |
犬 / ミニチュア・ダックスフンド |
| 年齢/性別 | 18歳3ヶ月(2008年6月21日) / 避妊メス |
| 体重 /BCS |
2.7㎏ (最高時 3.5 kg)/ |
| 初診日 |
2026年6月24日(腫瘤受診日) |
| 主訴 | 右後肢第4指の腫瘤・腫大 |
| 既往歴/背景 | 2024年3月1日(15歳時)に子宮蓄膿症 |
臨床所見および診断プロセス
【検査所見・画像所見】
■視診・触診および画像所見
初診時(Day0:2026年6月24日)、右後肢第4指関節部に腫瘤を形成。その後2026年7月24日(術前検査)の再診時において腫瘤の増大傾向が認められたほか、右膝窩リンパ節の腫大および脾臓超音波/画像検査にて腫瘤(mass)形成が確認された。
■病理組織検査所見
・右後肢第4指皮膚腫瘤
表皮下から皮下組織にかけて浸潤性増殖を示す肥満細胞腫と診断。Patnaik分類 Grade III / Kiupel分類 高グレード(High Grade)。有糸分裂像(Mitotic Index: MI)は3/10HPF。サージカルマージンは確保されていた。
・右膝窩リンパ節
辺縁洞およびリンパ節周囲において肥満細胞の初期浸潤が認められ、肥満細胞腫の転移が疑われた。
・脾臓腫瘤
上皮性悪性腫瘍(腺癌疑い)の像を示し、他臓器からの転移性病変の可能性が示唆された。
■遺伝子検査所見
犬c-kit遺伝子変異検査を実施した結果、いずれの領域においても変異は「検出されず(変異なし)」と判定された。
【除外診断および確定診断】
針生検(細胞診)および術後の病理組織学的検査により、右後肢第4指における高グレード肥満細胞腫(Grade III)と確定診断した。また、右膝窩リンパ節への初期転移および脾臓悪性腫瘍(癌腫)の併発と診断した。c-kit遺伝子変異検査にて変異陰性であることを確認した。
治療的介入(併用戦略)
【標準治療の内容】
■外科手術
大学病院等の二次診療施設での断脚術(広範囲切除)を提示したが、飼い主様が侵襲の大きい手術を希望しなかったため、当院にて2026年7月25日(Day31)に温存目的の最小限の減量手術(右後肢第4指断指術、右膝窩リンパ節切除、脾臓摘出術)を実施した。
■薬物療法
初診時より保存的治療としてプレドニゾロン 1mg/kg SIDの投与を開始した。分子標的薬は、c-kit遺伝子変異が検出されなかったこと、および飼い主の意向を踏まえ実施しなかった。また、術後の貧血改善および補助療法として漢方薬(十全大補湯エキス:0.1g BID )を併用している。
フアイア糖鎖TPG-1の給与
■給与量
初診時(2026年6月24日(Day0))より2倍量で開始し、
手術翌日(2026年7月26日(Day32)より3倍量へ増量した。
■給与期間
2026年6月24日(Day0)より継続中(2026年9月26日(Day92)時点で約3ヶ月間継続)。
■給与を開始した臨床的理由
18歳3ヶ月という高齢かつPatnaik Grade III(高グレード)の肥満細胞腫であり、さらにリンパ節転移疑いおよび脾臓癌を伴う難治性病態に対し、断脚術を回避して最小限の局所切除を選択したため、抗腫瘍免疫の活性化、微小残留病変の制御、および全身のQOL維持を期待して導入された。
経過と結果
▲Day86_術後外貌
【検査数値推移表】
| Day |
フアイア糖鎖TPG-1 (倍量) |
体重 (kg) |
PCV | 備考 (臨床所見など) |
| 0 | 2 | 2.7 | 31% | プレドニゾロン1mg/kg、 右後肢第4指腫瘤形成 断脚術辞退による保存的治療開始 |
| 30 | 2 | 2.7 | 31% | 腫瘤増大傾向あり。 最小限の手術方針決定 膝窩リンパ節腫大・脾臓腫瘤 |
| 31~32 | 3 | 2.7 | - |
最小限の手術(断指・リンパ節切除・脾摘)実施、 |
| 34 | 3 | 2.7 | 42% | - |
| 40~49 | 3 | 2.7 | 34〜37% | 病理:Grade III/高グレード、 c-kit変異陰性 |
| 92 | 3 | 2.7 | 34〜37% | 食欲・元気旺盛、良好なQOL維持、維持 / 再発・転移なし |
【有害事象の観察】
フアイア糖鎖TPG-1を2倍量から3倍量へと増量して給与した全期間中において、嘔吐・下痢などの消化器症状やその他の臨床的に重大な有害事象は観察されず、ステロイドおよび漢方薬との併用下においても良好な消化器耐容性と安全性が確認された。
考察
【臨床的意義】
犬の肥満細胞腫において、Patnaik Grade IIIおよびKiupel高グレード(High Grade)は局所再発率および遠隔転移率が非常に高く、極めて予後不良とされる病態である。本症例は18歳3ヶ月という高齢であり、広範囲の断脚術を回避して最小限の局所切除(断指術)に留めたため、局所および微小循環における腫瘍細胞の残留リスクが懸念された。
さらに、c-kit遺伝子変異陰性であったため分子標的薬による治療効果が得られにくい可能性が高く、分子標的薬の投与も行われなかった。 このような背景において、フアイア糖鎖TPG-1給与や漢方薬の併用により、免疫応答や全身状態の補完がなされ、術後約2ヶ月間にわたり局所再発・遠隔転移を抑止し、体重および良好なQOLが維持できている可能性が示唆される。
【本報告の限界(Limitation)】
■本報告は単一の動物における臨床経過を観察した症例報告(n=1)である。そのため得られた知見を一般の肥満細胞腫症例にそのまま適用(一般化)するためには今後の症例の蓄積が求められる。
■減量手術(第4指断指術・膝窩リンパ節切除・脾臓摘出)、初期のステロイド投与や漢方薬の併用が同時に行われているため、認められた臨床的成果がフアイア糖鎖TPG-1単独によるものか、あるいは各治療の相乗効果によるものかの因果関係を客観的に分離・確定することは困難である。
■現時点での追跡期間は術後約2ヶ月間であり、高グレード肥満細胞腫における長期的な無病生存期間(DFS)および全生存期間(OS)を評価するには、今後の継続的な臨床モニタリングが必要とされる。
【結語】
高齢や全身状態、あるいは飼い主の希望により標準的な広範囲外科切除や強固な化学療法・分子標的薬の実施が困難な高グレード犬肥満細胞腫症例において、最小限の局所切除とフアイア糖鎖TPG-1を軸とした免疫調節療法および漢方治療を組み合わせる集学的アプローチは、QOLを維持しながら良好な経過を得るための実践的な治療選択肢の一つとして期待される。