【症例】甲斐犬の肝臓腫瘤・腹腔内出血における長期的なQOLの維持・管理の事例
症例提供:東京都内 動物病院(獣医師)
肝臓腫瘤による急性腹腔内出血および重度の貧血に対し、止血剤とフアイア糖鎖TPG-1の併用、および多角的なサポート(食事管理・鍼治療)を行うことで、2年5ヶ月以上のQOL維持を実現した症例。
フアイア給与概要
|
給与量 |
給与期間 |
|
2倍量 |
314日間 |
|
3倍量 |
560日間〜(継続中) |
症例基本情報
|
品種 |
甲斐犬 |
| 年齢/性別 | 16歳(2010年生)/ 去勢雄 |
| 初診日 |
2024年2月28日 |
| 主訴 | 朝の散歩時のふらつき、のたのた歩く、食欲不振 |
| 既往歴/背景 | 2020年に重度の膀胱炎(細菌感染およびストルバイト尿石症)の既往あり。尿石ケア療法食を現在も継続中。 |
症例概要
【検査・診断】
Day-54の血液検査にて肝酵素の顕著な上昇(ALT 377 U/L、ALP 659 U/L、GGT 12.8)が認められ、その後のX線および超音波検査により肝臓の著明な腫大と結節(腫瘤)が確認された。Day0の来院時にはPCV(ヘマトクリット)が33%に急降下しており、腹水穿刺で血液が確認されたため、肝臓腫瘤からの腹腔内出血と診断された。
【課題の特定】
高齢であることやご家族のご意向から、二次診療施設での外科的手術や積極的な抗がん剤治療は選択できない状況であった。本症例では、予後1週間程度と懸念された急性の腹腔内出血および重度貧血に対し、低侵襲な保存的療法によって出血をコントロールし、患者の苦痛軽減と良好なQOLの長期維持を図ることが主な課題であった。
治療経過・併用戦略
導入期:
Day0の急性腹腔内出血の確認後、直ちに止血剤(カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム水和物、ビタミンK)の内服を開始した。当初腫瘤縮小を期待して給与していた別のサプリメント(HCC)は、腫瘤の急壊死を誘発して出血を招いたリスクを考慮して中止し、肝機能サポートと免疫調整を目的としてDay3よりフアイア糖鎖TPG-1(2倍量 BID)の給与を開始した。
調整期:
フアイア糖鎖TPG-1開始からわずか数日でPCVが40%に回復し、出血の沈静化が観察された。状態の安定に伴い、Day12にはカルバゾクロムスルホン酸ナトリウム水和物を休薬、Day19にはビタミンKを減量(BIDからSIDへ)し、その後休薬へと移行した。Day210に一過性の食事性アレルギー様症状(眼や口周囲の痒み・脱毛)が出現したが、原因となったおやつの休止と、一時的なオクラシチニブ(5.4mg 1錠, BID, 7days)の投与により速やかに改善した。Day317からは、緩やかな貧血進行と肝酵素の上昇を受けて、フアイア糖鎖TPG-1を3倍量 BIDへ増量した。
維持期:
ご家族の病気による通院困難な時期においても、フアイア糖鎖TPG-1と療法食の給与が途切れず継続された。Day849以降は、腫瘍の急激な悪化よりも、加齢に伴う消耗性変化(起立不能、脱水、非再生性貧血、腎機能低下など)が顕著となったため、皮下補液(300cc)、抗生物質、鍼治療、および造血剤(エポエチン ベータ(遺伝子組換え) 0.5ml 注射)などを症状に合わせて柔軟に併用した。Day861には皮下点滴を実施し、Day864・Day870には非再生性貧血に対してエポジン注射を計2回投与、これと並行して週1回の鍼治療を継続した。Day864頃からは一時起立不能に陥った後肢の不全麻痺が回復し、自力で立ち上がって少し歩き回れるまでにQOLを取り戻した。その後、Day 891にかけては補液や抗生剤などの追加治療を終了し、現在は週1回の鍼治療とフアイア糖鎖TPG-1の給与のみの保存的ケアに絞り込み、穏やかな日常を維持している。
臨床経過・データ推移
|
Day |
フアイア糖鎖 |
体重 |
PCV |
ALT |
ALP |
治療内容 |
備考/状態 |
|
-54 |
- |
10.22 |
- |
377 |
659 |
- |
肝酵素上昇・体重減少 |
|
0 |
- |
10.16 |
33.0 |
849 |
639 |
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム水和物、ビタミンK(内服)開始 |
初診 |
|
3 |
2 |
9.60 |
40.0 |
- |
- |
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム水和物、ビタミンK継続 |
フアイア糖鎖TPG-1開始 |
|
12 |
2 |
9.62 |
38.5 |
- |
- |
カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム水和物終了、ビタミンK継続 |
便状態改善、自力採食の回復 |
|
19 |
2 |
9.94 |
40.0 |
- |
- |
ビタミンK減量(BID→SID) |
状態安定、食欲良好 |
|
70 |
2 |
- |
40.0 |
314 |
512 |
- |
肝酵素横ばい、状態良好 |
|
210 |
2 |
11.48 |
39.0 |
399 |
551 |
オクラシチニブ5.4mg 1錠, bid, 7days |
眼・口周囲の痒み、後ろ足のよろつき |
|
271 |
2 |
11.80 |
37.2 |
476 |
602 |
オクラシチニブ一時再処方 |
アレルギー軽度再発、体重は増加のピーク |
|
317 |
3へ増量 |
11.54 |
36.1 |
672 |
669 |
フアイア糖鎖TPG-1増量 |
徐々に貧血進行・肝酵素上昇 |
|
849 |
3 |
8.62 |
30.4 |
519 |
1171 |
皮下補液(300cc)、抗生剤注射、鍼治療開始 |
老衰・起立不能・脱水による通院 |
|
853 |
3 |
9.06 |
32.7 |
885 |
1510 |
オルビフロキサシン 1錠、鍼治療継続 |
起立困難、自力飲水困難 |
|
861 |
3 |
- |
- |
- |
- |
皮下補液、鍼治療継続 |
ふやかしフード、ヤギミルク等で自力水分補給良好 |
|
864 |
3 |
- |
28.7 |
- |
- |
エポエチン ベータ(遺伝子組換え)(0.5ml)注射 |
PCV低下(非再生性)あるが起立・採食良好 |
|
870 |
3 |
- |
- |
- |
- |
エポエチン ベータ(遺伝子組換え)(0.5ml)注射、鍼治療継続 |
自力採食、歩行維持 |
|
877 |
3 |
- |
26.9 |
- |
- |
鍼治療継続 |
緩やかな貧血があるが、自力採食と歩行を良好に維持 |
|
891 |
3 |
- |
32.3 |
718 |
922 |
週1回の鍼治療、フアイア糖鎖TPG-1のみ |
【血液・腹部エコー検査】肝酵素低下、PCVの明確な再改善。 歩行・自力採食のQOLをしっかり維持 |
初診後数日(Day 3頃)で、PCVが40%まで回復し、急性出血の大きな危機を脱した。その後は順調に体重増加と活力の改善を示し、約2年にわたる安定した長期管理を維持した。Day849頃の老衰期には一時的な起立不能や非再生性貧血の進行がみられたものの、適切な支持療法、鍼治療、およびフアイア糖鎖TPG-1の継続により乗り越えた。Day 891の検査では肝酵素(ALT 718 U/L、ALP 922 U/L)の低下傾向とPCV(32.3%)の上昇が確認された。
考察
治療のポイント:
本症例は、14歳(初診時)という高齢かつ肝臓腫瘤の破裂に伴う腹腔内出血という予後が厳しいと予想される状態から、外科手術を行わずにQOLを長期間維持できた事例である。Day891に実施された腹部超音波検査では、肝臓全体にびまん性変化や辺縁のボコボコした不正といった慢性的な腫瘍性変化は依然観察されるものの、初期に存在した「まだら模様(低エコー領域)」が「少し密」に変化しているという質的変化が確認された。これは腫瘍組織の急激な壊死や進行が長期にわたって穏やかに制御され、構造的な安定を保てていることを画像上でも証明している。
併用による相乗効果:
Day849に老衰や貧血の進行から一時的に起立不能(後肢の不全麻痺)となったが、適切な補液・エポジン投与と並行して「週1回の鍼治療」と「フアイア糖鎖TPG-1の3倍量給与」を組み合わせた。このアプローチにより、Day864には自力起立・歩行ができるまでに状態を持ち直した。 そしてDay 891時点では、補液等の支持療法を終了し、鍼治療とフアイア糖鎖TPG-1のみの最小限のアプローチに移行した状態でも、肝酵素の低下や貧血の改善を両立し、良好なQOLを維持できている。
結語:
手術や積極的な抗がん治療を選択できない高齢の肝臓腫瘍症例において、フアイア糖鎖TPG-1は長期的な病態進行の抑制、そして老衰に伴うQOL低下に対する多角的な維持管理に至るまで、一定の安全性のもとで治療へ寄与した可能性が示された。本事例で得られた経過・管理・考察(観察)のプロセスは、愛犬の苦痛なき時間と穏やかな日常を少しでも長く守りたいと願うご家族、および高齢ペットのターミナルケアに真摯に向き合う臨床獣医師にとって、価値のある指標となる。