【症例】肥満細胞腫のマルチーズ
症例提供:岐阜県内 動物病院(獣医師)
化学療法に起因する副作用(QOL低下)リスクを排除した上で高グレードかつリンパ節浸潤を伴う肥満細胞腫に対し、術後6.5ヶ月経過時においても再発・転移の進行なく、QOLの維持が認められた症例。
フアイア給与概要
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給与量 |
給与期間 |
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1倍量 |
314日間 |
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2倍量 |
183日間 |
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3倍量 |
16日間〜 |
症例基本情報
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品種 |
マルチーズ |
| 年齢/性別 | 13歳(初診時)/去勢雄 |
| 初診日 | 2025年3月8日 |
| 主訴 | 陰嚢上の腫瘤(mass)および、しきりに舐める行動 |
| 既往歴/背景 | 初診時に甲状腺ホルモン値が0.3未満と低値、二次性の変化と診断。 脾臓に結節性過形成があり、クローナリティ検査にて低悪性度リンパ腫の疑いも検出されている。 |

▲脾臓の結節性過形成の腹部超音波検査所見
症例概要
【検査・診断】
Day0に陰嚢上の痂疲を伴う皮膚炎の細胞診を実施し、肥満細胞腫が疑われた。
その後、Day311の外科手術で摘出した組織の病理組織検査により、高グレード(グレード3)の肥満細胞腫であることが確定し、同時に鼠径リンパ節への浸潤(転移疑い)も確認された。
さらに、腫瘍組織を用いた「犬c-kit遺伝子変異検査」を実施した結果、「エクソン11挿入変異(ITD)」が変異あり(陽性)であることが判明した。

▲陰嚢切除前所見 ▲陰嚢切除後所見

【課題の特定】
皮膚肥満細胞腫のグレード3(高悪性度)は一般に予後が非常に厳しく、リンパ節転移を伴う場合の腫瘍関連死リスクが高く、生存期間中央値は3.6ヶ月〜6.8ヶ月と報告されている。(Berlato et al., Vet Pathol. 2021;58(5):858-863. )
c-kit遺伝子のエクソン11挿入変異が認められた本症例においては、分子標的薬(トセラ二ブ等)が著効する可能性が高いと予想される状態であった。しかし、ご家族が抗がん剤治療を選択されなかったため、体への負担(副作用)を避けながら腫瘍の進行をコントロールし、QOLを長く維持できるかという点が初期の課題であった。さらに、術後半年近く経過した時点(Day498)で、急激な血小板減少および出血傾向(骨髄転移の疑い)が発生し、この急性の血液異常(骨髄抑制)をどのようにコントロールし生体危機を克服するかが、第2の重要な課題となった。
治療経過・併用戦略
標準治療:
ベースとなる治療として、Day311に陰嚢上および右陰茎横の腫瘤、ならびに脾臓の結節を外科的に切除し、腫瘍容積の物理的な低減を図った。
独自の工夫:
ご家族の意向により抗がん剤治療を見送ったため、術後4日目(Day315)よりフアイア糖鎖TPG-1を2倍量へと増量した。同時に、体質に合わせた手作り食(鶏むね肉・もも肉、白米、じゃがいも、さつまいも、キノコ類など)への食事管理を徹底した。さらに、Day498の急性血小板減少症の発生に対しては、フアイアを3倍量へと増量し、プレドニゾロンの投与および漢方薬の併用を開始。貧血の急進行に対しては、入院下にて輸血(200cc)を実施する併用多角アプローチをとった。
目標設定:
化学療法に起因する副作用リスクを排除した上で、フアイアと食事管理により体の土台を整えることで、再発や転移のリスクを少しでも抑え込み、QOLの維持を図っていった。中途で発生した急性の血液異常(血小板減少症・貧血)に対しては、内科的対症療法(ステロイド・輸血)とフアイアの増量(3倍量)を最適に組み合わせることで、全身のQOL崩壊(致死的な出血等)を最小限に抑え込み、再び良好な体調維持ステージへと回帰させることを当面の目標とした。
臨床経過・データ推移
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Day |
フアイア糖鎖 |
体重 |
治療内容 |
備考/状態 |
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0 |
1 |
- |
細胞診の実施 |
陰嚢上に腫瘤発見。元気あり。 |
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311 |
1 |
4.2 |
外科手術 |
グレード3肥満細胞腫。 |
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315 |
2 |
- |
手作り食に変更 |
標準治療を選択されなかった。 |
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435 |
2 |
- |
継続 |
体調問題なし、元気・食欲あり。 |
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479 |
2 |
4.3 |
継続 |
術後5.5ヶ月経過。 |
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498 |
3 |
- |
プレドニゾロン・漢方開始 |
口腔内出血、皮膚に紫斑。HCT 29% / PLT 1.8万。 |
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500 |
3 |
- |
輸血200cc(入院下) |
出血傾向継続。HCT 17%まで貧血が進行 / PLT 6.3万。 |
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501 |
3 |
- |
継続 |
輸血翌日。食欲が回復。HCT 33% / PLT 13.8万。 |
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507 |
3 |
- |
継続 |
状態大幅に改善、食欲あり。HCT 32% / PLT 22.4万。 |
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513〜 |
3 |
- |
プレドニゾロンを減量 |
プレドニゾロンを1.2→0.8mg/kgへ減量。 |

▲Day335の内腸骨リンパ節の腹部超音波所見

▲Day479の内腸骨リンパ節の腹部超音波所見
【変化の要約】
外科手術直後から抗がん剤を使用せず、フアイア糖鎖TPG-1の増量ならびに食事管理を開始した結果、術後168日(5.5ヶ月)時点まで体重微増(4.2kg → 4.3kg)を伴う良好な維持がなされていた。その後、術後187日目(Day498)に骨髄転移を疑う急性の血小板減少(1.8万)および貧血(最低値HCT 17%)に直面したものの、プレドニゾロン・輸血療法といった内科的対症療法とともに、フアイアを3倍量へ増量する積極的な管理を実施した。これにより血液状態は改善(PLT 22.0万、HCT 32%へ回復)し、プレドニゾロン減量後も消化管出血(黒色便)は消失、食欲および一般状態は高く維持されている。術後200日を超えた現在もフアイア3倍量を継続し、高いQOLを維持した生存が継続されている。
考察
治療のポイント:
高グレードかつリンパ節転移陽性、かつc-kit変異(エクソン11 ITD)陽性という侵襲性の高い肥満細胞腫において、化学療法を行わない場合の予後は不良とされている。本症例では術後(Day498)に重篤な血小板減少症を発症したものの、プレドニゾロン投与および輸血による内科的管理に、フアイア糖鎖TPG-1を3倍量へと増量する多角的なアプローチを行った。その結果、大型血小板の出現を伴う良好な骨髄再生が促され、急性期病態から脱した。有害事象を伴う抗がん剤を回避しつつ、このような重篤な病態を克服し、術後200日を超える長期生存と良好なQOLを両立し得たことは、臨床上意義深い。
結語
予後不良の癌と診断された際、副作用などの懸念から抗がん剤治療に踏み切れないご家族は少なくない。そうした中で、本症例のように「外科手術」と「フアイア糖鎖TPG-1・食事管理」を組み合わせるアプローチが、QOL維持を目的とした補助的な治療選択肢の一つとして機能する可能性が示唆され、今後の知見の蓄積が求められる。
