【症例】猫の鼻腔リンパ腫およびウイルス性鼻気管炎に対する多剤併用化学療法とフアイア糖鎖TPG-1の併用管理事例
症例提供:秋吉亮人先生(アキヨシアニマルクリニック)
高悪性度B細胞性鼻腔リンパ腫に対する化学療法に伴い、鼻症状・消化器症状を発症した日本猫に対し、フアイア糖鎖TPG-1を併用し、感染症抑制・QOL維持ができた事例。
フアイア給与概要
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給与量 |
給与期間 |
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2倍量 |
約175日間 |
症例基本情報
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品種 |
日本猫 |
| 年齢/性別 | 17歳/ 避妊雌 |
| 主訴 | 約1か月前からの持続するくしゃみ・鼻汁、5日前からの鼻出血および眉間部の腫脹 |
| 既往歴/背景 |
若齢期(子猫時代)より猫ウイルス性鼻気管炎(FVR)およびアレルギー性皮膚炎の診断歴あり(現在も低アレルゲン食継続中)。 |
症例概要
【検査・診断】
- 身体・画像検査:
初診時の正面視で右眼開瞼不良および鼻腔〜副鼻腔領域の腫瘤様腫脹を確認した。X線検査にて右側鼻腔の不透過性亢進、CT検査にて鼻中隔および鼻骨の骨溶解を伴う腫瘤性病変を認めた(篩板骨融解および頭蓋内浸潤はなし)。 - 病理・細胞診検査:
鼻腔病変部の細胞診にて大型の腫瘍性リンパ球を多数確認した。リンパ球クローナリティ解析でIgH遺伝子再構成が確認され、B細胞性高悪性度鼻腔リンパ腫と確定診断した。 - ウイルスPCR検査:
猫ヘルペスウイルスおよび猫カリシウイルス陽性であった。
治療経過・併用戦略
導入期:
鼻腔リンパ腫の第一選択治療は放射線治療であるが、費用面および通院頻度を抑えたいという飼い主様の強い希望を尊重し、化学療法を選択。通院間隔を空けられる初期プロトコルとして、L-アスパラギナーゼ(L-asp)およびニムスチン(ACNU)の併用療法を導入した。
- Day 1:L-asp(400 U/kg)を皮下投与。腫瘍は劇的に縮小し、部分寛解(PR)を達成。
- Day 8:L-asp(400 U/kg)+ ACNU(35 mg/m²)を投与。
- Day 15:腫瘍が急速に再増大し、進行(PD)を確認。
調整期:
腫瘍の進行(PD)を受け、多剤併用化学療法(CHOP療法)を再提案したが、通院負担を考慮して高用量シクロフォスファミド(CPA 460 mg/m²)の静脈内単剤療法へと切り替えた(文献:Moore et al., 2018; Chan et al., 2020)。
- Day 22:高用量CPA(460 mg/m²)の初回投与を実施。
- Day 29(治療の難所): 腫瘍は肉眼的に消失し、臨床的完全寛解(CR)に近いレベルまで縮小したものの、高用量CPAの副作用による重篤な「発熱性好中球減少症」(体温39.8℃、WBC 360/μL、好中球数 Neu 180/μL)を発症。 同時に、極度の骨髄抑制(易感染状態)によって、既往の潜伏していたFVRが再活性化し、激しい嘔吐、下痢、重度の鼻汁、くしゃみを呈した 。



維持期:
重篤な好中球減少とFVR悪化を克服するため、制吐薬(マロピタント)による対症療法に加え、飼い主様の要望を受けて、粘膜免疫バリアの調整および免疫サポートを目的とした「フアイア糖鎖TPG-1」を推奨量の2倍量で導入した。
- 導入後の変化: フアイア導入後、それまで化学療法のたびに頻発していた激しい鼻汁や下痢は消失し、その後の治療期間を通じて再燃しなかった。嘔吐も良好にコントロールされ、食欲や活力が回復した。
- 減量と再増量: Day71以降、発熱性好中球減少症の再発懸念からCPAの投与量を10%減量(414 mg/m²)して様子を見た。その後、飼い主様の強い希望(通院間隔維持)により、4回目の投与時には再び高用量の460 mg/m²へと戻したが、抗がん剤投与1週間後の好中球減少は認められたものの、発熱や感染に伴う二次症状は発生しなかった。
- 耐性発現から終末期: その後、CPAに対して耐性が生じたため、ビンクリスチン(0.6 mg/m²)、トセラニブ、放射線、カルボプラチン(220 mg/m²)、ロムスチン(CCNU)を順次導入した。数々の異なる抗がん剤治療や局所治療を行う期間中も、フアイア糖鎖TPG-1を併用し続けた結果、下痢・鼻汁・くしゃみ等の再燃や、発熱性好中球減少症・日和見感染の発症は一度も認められず、QOLを保ったままDay 203に脳浸潤により静かに永眠した。
臨床経過・データ推移
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Day |
フアイア糖鎖 (倍量) |
体温 |
WBC |
Neu |
臨床症状 |
治療内容(薬剤等) |
備考/状態 |
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1 |
- |
- |
- |
- |
くしゃみ・鼻汁・鼻出血、顔貌腫脹 |
L-asp 400 U/kg |
PR(初期縮小) |
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8 |
- |
- |
- |
- |
- |
L-asp 400 U/kg, ACNU 35 mg/m² |
腫瘍サイズ維持 |
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15 |
- |
- |
- |
- |
- |
- |
PD(腫瘍再増大) |
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22 |
- |
- |
- |
- |
- |
CPA 460 mg/m² |
高用量CPAプロトコールへ変更 |
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29 |
2 |
39.8 |
360 /μL |
180 /μL |
発熱、嘔吐・下痢・重度鼻汁・くしゃみ |
CPA継続、対症療法(ミルタザビン、マロピタント)、 |
ほぼCR達成も発熱性好中球減少症・FVRの再活性化が併発 |
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29〜70 |
2 |
平熱推移 |
- |
10000〜25000 /μL前後 |
鼻汁・下痢が完全に消失、嘔吐軽快 |
CPA 460 mg/m² 継続 |
腫瘍コントロール維持、副作用・感冒症状なし |
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71〜 |
2 |
平熱維持 |
- |
好中球減少期あり |
消化器・鼻症状の再燃なし |
CPA 10%減量後、4回目に460 mg/m²へ再増量 |
発熱性好中球減少症の再発なし |
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耐性発現〜203 |
2 |
平熱維持 |
- |
- |
消化器・鼻症状なし、日和見感染なし |
ビンクリスチン 0.6 mg/m²、トセラニブ、 |
終末期までQOLを高く維持 |

考察
治療のポイント:
高齢かつ猫風邪(FVR)キャリアである猫の腫瘍治療において、化学療法に起因する骨髄抑制と免疫低下は、潜伏ウイルスの再活性化や二次感染による重篤な臨床症状を引き起こす大きなリスクとなる。本症例では、好中球数が著しく低下した状態においてもフアイア糖鎖TPG-1の併用により感染症状や粘膜症状が発現しなかった点が観察ポイントである。
① 鼻腔および腸管における「粘膜免疫バリア」の恒常性の維持
抗がん剤治療(特に高用量シクロフォスファミド)の副作用として、一般的に下痢などの重篤な消化器症状が認められる。また、本症例のように高齢で猫風邪(FVR)のキャリアである場合や骨髄抑制期(Day29における好中球180/μLという易感染状態)において、潜伏する猫ヘルペスウイルス・カリシウイルスが再活性化し、重篤な鼻炎や日和見感染を引き起こすことがある。
しかし、フアイア糖鎖TPG-1(2倍量)の導入後から、鼻汁や下痢が消失し、治療終了(Day203)まで一度も再発しなかったことが認められた。これは免疫調節作用により、特に腸管および鼻腔粘膜の局所的な「粘膜免疫バリア機能」が最適化(恒常性が維持)されたためと示唆される。
② 発熱性好中球減少症と「治療強度の最大化」
本症例においてフアイア糖鎖TPG-1は、「骨髄抑制(好中球減少)そのものを物理的に防ぐわけではない」という点にある。 データが示すように、フアイア糖鎖TPG-1給与中も抗がん剤の投与スケジュールに沿って好中球数は減少(骨髄抑制)を繰り返していた。しかし、好中球が極度に減少した危険な状態(易感染状態)であっても、生体は「発熱」を伴う感染症に陥らなかった。
抗がん剤の副作用リスクについて一定のコントロールをすることができた結果、本来維持すべき「化学療法の治療強度(Dose Intensity)を最大化し、治療プロトコルを完了する」ことができた。
結語
化学療法を受ける悪性腫瘍の患者(特に高齢等リスクを抱える犬猫)において、フアイア糖鎖TPG-1の併用は、「生体の免疫バランスと粘膜バリアの最適化」を果たす補助療法の可能性が示唆される。
抗がん剤起因の過酷な副作用を効果的にコントロールし、患者の精神的・身体的なQOLを最期まで高い水準で維持するとともに、治療プロトコールの完遂率を向上させるための支持療法として、フアイアは獣医療において高い有用性と将来性を有していることが、本症例によって示唆された。